氣食暦

氣食暦(5)

 ~夏越しの祓え~

 通りすがりの路傍の垣根から、向日葵(ひまわり)がのっと顔を出し、日の陽気を満面に湛えていました。間も無く夏の土用、一年の暑さ極まれる日、大暑の頃となります。この土用の頃の新月前に夏越しの祓えの行事が各地で行われます。古来、先人は夏至から暑さ極まるこの夏の土用(大暑の頃)、一方冬至から寒さ極まる冬の土用(大寒の頃)、この時季をそれぞれ一年の折り返し点として意識して来たようです。夏越しの祓えの行事も、年前半のけがれを祓い、後半期の予祝とする習慣だったのでしょう。

 何気なく行っている、お中元、お歳暮、暑中見舞い、年賀状もこの節目に、無事を祝い、健康や幸せを予祝する風習が残ったものかも知れません。

「土用」は、四立(しりゅう)、立春・立夏・立秋・立冬の前、約18日間ずつ、前の季節が極まり次の季節に転ずる時季。この時季に「体の季節」のずれを調える機会でもあります。

 夏土用、いわゆる夏バテが出やすい時期。外気との温度差の大きな冷房にあたり過ぎたり、冷たいものの摂りすぎで、体に冷えが溜まると、胃脾の機能が落ち、消化吸収機能が衰え、体力の消耗、だるさ、つかれ、などの夏バテ症状が出やすくなります。

 ここで、夏土用の氣食の要点を記しておきましょう。

漢方医学の考え方では、夏の氣に感応する臓腑は、心と小腸です。これらの臓腑に対応する五色五味は、赤・苦です。苦みのある野菜、にがりを含む天然塩、赤い色の野菜、食材を。

一方、土用は正に土の氣が盛んになるとき。土の氣に感応する臓腑は脾と胃です。五色五味は、黄・甘。黄色にして、自然の甘みを備えたさつまいもや、カボチャなどはその代表例ですね。因みに、土の五味は甘ですが、精製糖などの強すぎる甘は、むしろ胃脾の氣を損なってしまいます。あくまで、自然な甘みを。そこで、夏土用にお勧めな飲み物が、梅干し甘酒です。

*梅干し甘酒:麹甘酒に、核を取った梅干しをつぶし、適宜入れ、良く混ぜて。

とても、簡単で、梅のクエン酸などの有機酸の疲労回復効果、更に水分代謝を調え、食欲増進作用もあり、更に麹甘酒の甘みはグリコーゲン。体内で即働き、ブドウ糖、果糖などの単糖と比べると、胃腸に負担をかけません。夏バテ防止には理想的な飲み物です。

 ここで、ドクダミについても述べておきましょう。

既に、白い花を咲かせたドクダミを採集して、日陰干ししている方も有るかも知れませんね。こうして乾燥したものの生薬名は、諸病に効くと言うので「十薬」と名付けられています。

生葉は強いにおいがしますが、このにおい成分には強力な殺菌消炎作用があり、化膿性疾患に外用。

一方、十薬には、利尿作用や緩下作用があります。漢方薬では、最近は余り処方例をみませんが、十薬は五物解毒散に配合されています。

 ドクダミで作るドクダミ酒とでも呼べる発酵液がありますが、これは殊に老人の体力低下、意欲減退に効ありとされ、民間薬として伝えられています。

 薬酒については、いずれ別稿で特集します。       樹遷 記

*これまで、養生塾北陸の集いで行われた氣食のレシピをこの稿の終わりに載せる予定でおりましたが、北陸の集いの方でこれまでの毎回の氣食も含め、編集し冊子にされると言う事になり、本稿には掲載しないことになりました。尚、冊子については、養生塾北陸の集いのホームページにお知らせが載ると思いますので、ご参照下さい。

氣食暦(4)

 ~夏至の候~

 「朽草(くちくさ)」蛍の別名。古人は腐った草が蛍になると考えていたようだ。各地から蛍の便りが。梅雨のさなか。この頃降る雨を大和古語でさみだれ。「さ」は皐月をさし、「みだれ」は水垂れる。五月雨と書くが、現在の6月は旧暦の五月にあたる。この時季、青葉の中にウノハナ、ミズキ、エゴノキ、ヤマボウシなどと白い花が鮮やかに写る。

 もう間も無く、夏至の候。白い花の連想でクチナシの花の香りが浮かび上がってきた。クチナシの花の氣食をご紹介しよう。

 そのまま、天麩羅にするのも良い。だが、花びらをさっと茹でて、酢の物を味あわれることをお勧めする。独特のぬめりが出て美味である。花を乾燥させて花茶とするのも良い。クチナシは、精神不安を和らげ、不眠症や便秘にも功ありと云われている。クチナシの花は、一日花。次の日には枯れしぼむ。目にしたら、早速感謝と共に摘まれることをお勧めする。食卓に季節の恵みが一皿彩りを添える。その夜の安眠も。

 漢方では、クチナシの果実を使う。生薬名:山梔子(さんしし)。充血、炎症、これらによる胸部の苦悶、黄疸などに、他の生薬との組み合わで廣く用いられている。一例を挙げれば、温清飲(うんせいいん)、辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)、黄蓮解毒湯(おうれんげどくとう)などなど。

 花の香りで更に思い付いた。地域によっては、既に花期の終わっている所もあるかも知れないが、スイカズラ(金銀花)の花が咲いているのを見かけられたら、スイカズラの薬酒を仕込まれることをお勧めしたい。忍冬酒と紹介されている事もあるが、漢方生薬名では花は金銀花、茎葉を忍冬と呼ぶ。

 スイカズラの花(日陰干しで乾燥させたもの)100~120gを1.8lの焼酎に。好みで蜂蜜、もしくは氷砂糖50~70g。1ヶ月以上、冷暗所で寝かせる。

薬酒以外には、花の寄せ揚げ。花と若葉、それにアンズ、もし手に入れば棗そしてクルミもしくは落花生を粗刻みしてかき揚げに。

スイカズラの茎、葉がたくさん採集できたら、刻んで天日干し。乾いたら釜煎り茶の要領で、とろ火で炒る。この茶に、乾燥させた花を加え香り豊かな薬茶が楽しめる。漢方では、金銀花は、銀𧄍散(ぎんぎょうさん)、忍冬は治頭瘡一方(ちずそういっぽう)などにその清熱作用を持って配合されている。

  樹遷 記

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氣食暦(3)

~すーまんぼーすー(小満芒種)~

 沖縄で暫しの間、民俗調査や、文化財マップ作成に携わった事から、いつの間にか二十四節気に沖縄の民俗行事を重ねて思い浮かべる事が習慣付いてしまった。沖縄の梅雨は早い。5月のゴールデンウィークには梅雨入りする事が多い。年によって違うが、6月中旬には梅雨明けとなる。丁度この間、小満から芒種の候に当たり、沖縄では梅雨時期をすーまんぼーすーと呼んでいる。因みに、小満から芒種に候の変わる前日の旧暦5月4日の日は、ゆっかぬひーの行事はーりーすーぶが各地で行われる。海神祭のこのはーりー競争の熱気をもって沖縄の梅雨明けがやってくる。

 立夏以降、緑の色も濃さを増し、急速に気温が上がり、次第に湿度も高まってくる。近年、この間の高温は記録的暑さを各地にもたらしている。こうした季節、気候、気象の急激な変動に体内気象がついて行っていない方々を昨今多く見かける。この時季、汗腺の機能がしっかり働き、発汗を促す事が出来ないまま、急激な暑さにさらされ熱中症となる方が後を絶たない。

発汗により、体内に籠もった熱や余分な水分を排出出来ないこうした方々の舌は、大きく膨らんではれぼったく、舌苔は黄色っぽく全体に湿っぽい状態になっていることが多い。もっとも、人間は気象に繊細に応ずる存在なので、梅雨の時季は一般的に舌は湿っぽくはなる。

 こうした、体内の湿熱調整、汗腺機能を活性化させ発汗を促す、体内の余分な水分を取り除くのには、大根、昆布、里芋などが。むくみを生じている場合は、冬瓜、キュウリ等の瓜類、ナーベラー(ヘチマの未熟果)、くうしんさい、小豆、そらまめ、もやし(殊に緑豆もやし)など。また、適度の発汗を促すには、軽く汗をかく程度のウオーキングを習慣にして頂くと良いが、食材としてはショウガ、ネギなど。

 上記の食材を使ったレシピを簡単に書いておこう。

*緑豆もやしとニガウリ(ゴーヤー)の油味噌炒め

*冬瓜とトウモロコシのスープなど

何れも、ネギ、ショウガを薬味に。

湿熱が体内に籠もっている状態の方は、濃い味付けは避け、肉類は控えめに。

氣食暦(2)

~平成を閉じる卯月~

 過日、富山ご出身の養生塾北陸の集いお仲間のご提案で、有志何名かと富山の和漢薬の店を訪ね、そこで供される「薬膳」を味わってきた。

もうあと数日で平成も幕を閉じ、新たな元号の始まるという初夏間近とはいえ肌寒い一日に金沢から車に乗り合わせ、富山市に向かった。

 

「えっちゅうとやまのはんごんたん!(越中富山の反魂丹)」、幼い頃玄関先に大きな黒い鞄に入った柳行李を担いだ男の人がやって来て、母とやりとりをしているのをおぼろげに、その時もらった紙風船と共に覚えている。男の人が帰った後で、母が歌うように「えっちゅう~・・・」と口ずさんだのは今でも耳の底に残っている。

九州には、佐賀県鳥栖の廻国売薬業も識られている。その流れは、今日サロンパスの商品名で知られる会社として残っている。しかし、あの幼い日、福岡の我が家に訪ねて来たのは、確かに越中富山からの売薬さんだったに違いない。

 富山は薬の邦と記憶に刻まれたのは、こんな幼い頃の風景からだろうか。

その富山のある製薬屋さんの営む薬膳料理屋を、氣食を学ぶ方々と訪れたのは、ひとえに世に喧伝される『薬膳』と私たちが提唱する『氣食』にはどのような違いがあるのかを氣食を学ぶ皆さんに実際に体験してみて頂きたいと考えたからである。

 花冷えの中、金沢を出発し、車中様々な話題に花咲かせながら過ごす内、間も無く富山市内堤町通りに面した件の店に到着した。この界隈には、「総曲輪」という名も残っており、かつてはこの北までが富山城の縄張り(設計)の範囲であったのだろうか。また大きな通り四筋ほど南には富山売薬の廣貫堂がある。

 時刻も昼時となり、薬膳を試食する事となった。

漢方の考え方に基づいた、旬の素材を使った体にやさしい料理をとパンフレットにも謳ったものではあったが、残念ながらまたか!という思いを味あわされた『薬膳』であった。

 世に『薬膳』と称する料理がヘルシー志向ブームに乗って広まっている。その多くは漢方薬を使い、また季節の食材を使い形は薬膳の形式を取ってはいるが、多くの場合、料理一皿一皿の氣味のバランスは悪く、美味しくない。何よりも、旬の素材を使っていながら、季の氣に配慮し、その季の氣と食する人の氣の調和に対し考慮不足である。

 無論、治病を目的としたものはさておき、一人一人の氣に応じた五味五性を調えるのは、不特定多数を相手の店では不可能に近いだろう。しかし、大きな季の氣の変動に対し、その影響を受け人々の体内の「気候」がどう変動するかは、虚実陰陽を読み取れば、少なくとも二つの氣味の準備の仕方ができ、おおよその対応は可能である。氣に応じた食は、食する人にとり美味でもあり、食した時点から体内の変化を感じ、健やかな充足感をもたらす。

 養生の薬膳を供する料理者は、少なくとも季の氣を感じ取り、人々の体内気候を推察できる氣の感性を養ってもらいたいものである。

 この「薬膳」を食しながら、かつて出会ったシェフの事を思い出していた。

スイス、ジュネーブで仕事をしていた折り、大きなプロジェクトが一段落した夕べ、フランス人同僚がとあるレストランに案内してくれた。

レマン湖の辺、見渡す限りのブドウ畑を通り、このような所にレストランが在るのかしらんと思い始めた頃、小さな農家に辿り着いた。

 車を降りると何とも良い香りが漂ってきた。この小さな農家がレストランで在ることを香りが告げていた。

 この一夜、語り尽くせぬほど多くのエピソードがあるが、就中このレストランのシェフの印象は今でも鮮やかに心に残っている。

 このレストランにメニューは無い。

私たちがテーブルに落ち着いた頃、そのシェフがテーブルにやって来た。夢見るような淡いブルーの目をし、歌うようなフランス語を話す人だった。ひと仕切り私たちと語り合ったあと、彼は厨房に姿を消した。その後、アペリティフに始まり、デザートに至るまで、その晩餐は快い驚きの連続であった。

 食卓の一人一人の料理、食味、香りが、その人が食べたいもの、食べて快くなる配慮がなされていた。

シェフは、あの数分間の私たちとの会話の間に、一人一人の必要としている、望んでいる食材、食味、香り、色合いを見極めていた。

氣の世界から、付け加えるなら、彼は更に季節、気候、その人の体内気象まで感じ取っていた。これは、食後、全ての他の客を送り出し、私たちのテーブルに秘蔵のアルマニャックを持って、失礼でなければ、あなたともっとお話したいと彼がやってきて話す内に知った事である。

正に、「氣食」の世界である。彼の下には、ヨーロッパ中から既に他の店でシェフをしていた若者達が修行に来ていた。

ブドウ畑に埋もれるような小さな農家に、ヨーロッパの食の智恵が詰まっていた。

氣食暦(1)

~きしょくのいい話~

 「立春の候」

 古代中国黄河中流域に住んでいた人々の智恵『二十四節気』は、春分点を起点として、地球が太陽を巡る一周360度を15度ずつに24等分し、おおよそ15日間の区切りで各気の自然の推移を示す工夫がなされています。更に、この24節気を約5日毎に区分した72候で、細やかに気象や動植物のいのちの移ろいを感じ取れる様に編まれています。

 日本には、6世紀頃朝鮮半島の百済を経て、この暦が伝来したと云われていますが、黄河流域とは異なる気候風土の日本の実情に合わせ何度か改訂され、また二十四節気七十二候を補い、より日本の気候風土、人々の暮らしに寄り添った日本独自の『雑節』(節分、彼岸、社日、八十八夜、入梅、半夏生、土用、二百十日、二百二十日)も加えて、今日でも季節の目印として私たちの生活の中にも息づいていますね。

 私たちの体の中でも、この24節気のいのちの移ろいは起きています。

新たな季節の変化に備え、また季節の推移に体の季節変化がついて行っていない時は、その微調整をするのに『氣食』の智恵があります。

食をもって、わたし達の体内の24節気72候を調え、いのち豊かに季節を楽しみ、すこやかに過ごす工夫です。氣食は、季食なのです。

 その先人たちから数千年に渉って伝えられてきた氣食の智恵を、『氣食暦み』として、折々お伝えします。

 過日新暦立春の候、北陸白山麓の杜のお仲間のお家を拝借して養生塾の集いを行いました。その折りの氣食レシピをお送りします。

立春は、とうに過ぎておりますが、南北に長い日本列島、地域によってはまだまだ立春前後の候のところも在る事と思います。また、本来の太陰太陽暦(旧暦)では、旧2月4日(旧立春)は新暦では3月10日に当たります。この氣食レシピお役にたてば幸いです。

 氣食の組み立て方などは、追々ご説明します。先ずは、一品でも二品でも作ってご覧になってみて下さい。もっと詳しく知りたいと思われる方、養生塾にお出で下さい。氣食の風景を楽しんで頂けます。

 過日のレシピは下記の通りです。

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 [2019年立春養生塾氣食メニューと心]

腎の補氣を中心に、特に今年は乾燥が強く風邪が流行っていることもあり肺の氣の整え、季節の転換点ゆえ胃脾の氣の整え、また春を迎えるにあたっての肝の氣の調整。

夕食:

〇みぞれ鍋「きのこ、さといも、白菜、人参、大根、あげ等」

 冬の寒を体からとるにはやはり内から温めること、まずはお鍋で温めます。具材も根菜類中心で体を温める。

〇春菊のチヂミ風「春菊、芝エビ、じゃこ、小麦粉、茯苓」

 生薬の茯苓を使い、冬の間にたまったむくみ(水毒)をとっていく。エビ、じゃこは腎の氣の補いに。春菊の苦みは心の氣の調整

〇レンコンと玉ねぎの甘辛炒め「れんこん、玉ねぎ、鷹の爪」

 甘みで胃腸を癒し、辛みをうまく使い、肺に刺激を与え、氣の巡りをよくする。

〇大根とツナの豆乳あえ「大根、ツナ、豆乳」

 大根の甘み辛みと豆乳は、胃脾と肺の整えに。

〇カブの酢のもの「かぶ、人参、塩昆布、ゆず」

 酢のもので春の肝の気を整えていく。ゆずの黄色で色のバランスを。

〇みかんの炊き込みご飯「鶏肉、きのこ、人参、ごぼう、かんきつ類」

 炊き込みで甘みをとりつつ、かんきつ類で軽く酸味をとり、食欲を上げる。

〇デザート「さつまいも、りんご、シナモン」

朝食:

〇五穀米、具だくさん味噌汁、干物、お漬物、温泉卵

 全体に胃脾の働きが増すような食材を使い、味付けに腎の氣の塩味をとりつつ、全体を整えていく。

色は、赤、黒、黄、白、青をバランスよく食材で取り入れていく。

※写真は後日、アーカイブに掲載いたします。